スタッフインタビュー 〈成形〉




波佐見焼の窯元「山下陶苑」。
他には珍しい一貫生産や、伝統色が美しいオリジナルブランド「nucca」の開発など、多様な特徴をもつ窯元です。

そんな山下陶苑についてもっと知るべく、山下陶苑で8年にわたって成形を担当している佐藤さんにインタビューをしてみました。
優しい人柄で頼りになる佐藤さん。筆者が作業をしている際に、重たい素焼きが乗った板を運んでくれたことがあり、何度も助けられています。
今回は山下陶苑のお父さん的存在である佐藤さんに成形の仕事の内容や注意点、難しさや仕事に関わってみての感想についてお話を伺います。



【成形の種類と仕事内容】

――まず初めに、成形の種類について教えてください。

佐藤 成形には、圧力鋳込み・排泥鋳込み・ローラーマシンの三種類があります。私が担当しているのは、ローラーマシンを用いた成形です。

――ローラーマシンを用いた成形とは、どういう仕事内容ですか?

佐藤 機械を用いた成形の方式です。型の上に土を乗せると、自動的に機械が下りてきて、土が器の形になります。

【感想】瞬間的に土が器の形になる様子は魔法のようです。重たい陶土を何度も機械の上に乗せるため、体力を消費する作業だなと感じました。


【成形についての詳細】

――成形には、圧力鋳込み・排泥鋳込み・ローラーマシンの三種類がある、とのことでしたが、それぞれの特徴についてもっと詳しく教えてください。

山下社長 圧力鋳込みについて説明します。まず、水でといたマヨネーズ状の陶土をタンクの中に閉じ込めて、空気を抜きます。それから、空気が抜けたら圧力をかけて、専用の型に注入します。型が水分を吸ってくれるので、ほどよく固くなったら、型から外すという成形方法です。



次に、排泥鋳込みについてです。まず、水で溶いたドレッシング状の陶土を、凹んだ型に満タンに流し込みます。型が水を吸ってくれるので、陶土が型に付着して、時間とともに厚くなっていきます。
ちょうどいい厚みになったら、型をひっくり返して、中の陶土を出します。ひっくり返した型をそのままにしておいて、陶土の乾燥を待って、型から外して成形するというのが排泥鋳込みの方法です。



最後に、今回インタビューを受けられている佐藤さんが行っているローラーマシン成形について説明します。
まず、機械の説明をすると、一枚目の画像では、上の丸い円形のコテと呼ばれる部分が反時計回りに回転して、100度前後に電気で熱されています。ダボと呼ばれる型を置く台も反時計回りに回転しています。
成形の際は、型の中に、又は上にローラーマシン専用に作られた陶土を入れます。
コテが下に降りた時は、コテ・ダボがともに回転しながら、陶土を徐々に延ばして成形します。
コテが上に上がった時は、すばやく生地がくっついた型を取りだし、陶土を入れた状態の型と入れ替えます。
成形直後は、生地は型にくっついた状態です。型にくっついた生地は、乾燥した空間へコンベアーで移動させます。乾燥を終えた生地は型から取り外され、器の形となります。



【感想】成形の種類によって、技法がまったく違うんですね。どの成形方法も、ヒトテマかかっていて難しそうだと感じました。



【仕事における注意点】

――ローラーマシンで成形をする際、気を付けることや注意することはありますか?

佐藤 特に土物の土を用いて成形する際は注意が必要です。土の種類によって固さが違うため、機械の温度や回転速度、機械を下降させる速度などを変化させなければいけません。

【感想】一見すると単調な作業に見えて、繊細な変化に対応しなければいけない難しい作業ですね。



【成形の難しさ】

――成形の仕事をするにあたって、難しいと思うことはありますか?

佐藤 土の種類や器の形、その時の気候によって作りやすさが変わる点です。
まず、土の種類には大きく分けて天草・YS陶土・唐津の三種類があります。天草は比較的に作りやすい陶土ですが、YS陶土と唐津は土物であるため、温度や土の固さに成形の具合が左右されます。そのため、機械の温度調節に細心の注意が必要となります。土の固さに関しては、固い土は作りやすく、柔らかい土は作りにくくなっています。



次に、器の形についてですが、コップやご飯茶碗などは作りやすい形ですが、平皿などは難しい形となっています。また、ラーメン鉢などの大きい器は重たく、作業の際に体力を使います。
そして、気候についてですが、気温や湿度は成形の具合に大きく影響します。湿度の高い梅雨は土を乾燥させる機械の温度を高くしたり、逆に乾燥している冬場は乾燥の温度を低くしたりと、季節に応じた工夫が必要となります。



――天草・YS陶土・唐津、それぞれの陶土の特徴を教えてください。

山下社長 天草とは、天草陶石で作られた白い陶土です。唐津とは、鉄分を多く含んだ土です。唐津焼などによく見られる、茶灰色の付いた陶土です。YS陶土とは天草陶石に鉄分を含んだ原料を混ぜた陶土です。天草と唐津の中間ぐらいの色のついた陶土です。



【感想】その時の状況によって柔軟に対応しなければいけない大変な作業だと感じました。
こんなにも機微な工夫が必要であることは、お話を伺って初めて知りました。



【仕事に携わってみての感想】

――この仕事に携わってみての感想をお聞かせください。

佐藤 機械にはデジタルのものとアナログのものがあるため、初めのうちは難しいと感じましたが、慣れてくると機械の性格や調子が分かるようになったためやりがいを感じます。
作りやすいものを作っているときは楽しく、苦手なものを作っているときは大変です。また、私は高齢であるため、その日の身体のコンディションによっても大変さが違います。



――仕事をする際に意識していることはありますか?

佐藤 自分で緊張感を作り出して仕事をするようにしています。この仕事では、数をこなしていく必要があり、次の仕事・次の型が常に控えているため、そのときに作業をしている土を早く使い切るように努力しています。



【感想】窯業の現場では、どの部署でも効率的に作業をすることが必要となりますが、柔軟な対応が求められる成形の作業でスピードを意識するのは大変だと感じました。普段はフランクにお話してくれる佐藤さんが、偉大に思えたインタビューでのひとときでした。