スタッフインタビュー その6  〜スジ引き〜

山下陶苑についてもっと知るべく、山下陶苑でスジ引きを担当している高比良さんにインタビューをしました。

普段は寡黙で多くを語らない高比良さんですが、絵付けのこととなると知識は豊富。波佐見高校の美術・工芸科で陶芸を学ばれており、専門性のある技術を持っているため、社内のみんなから頼られる存在です。

今回のインタビューでは、そんな高比良さんに、スジ引きの仕事の内容やコツ、難しさや仕事に携わってみての感想についてお話を伺います。


※高台部分に二本線を引いている様子です。

【スジ引きの仕事内容】

――まず初めに、スジ引きの仕事内容について教えてください。

高比良 茶碗や皿、コップなど、様々な形状の器をスジ車(ろくろ)の上に乗せて回しながら、ラインを引く作業です。主に高台(器が卓と接する脚となる部分)にラインを引きます。また、大きな筆を使って広範囲に色を付けたりします。

――どんな絵の具を使っていますか?

高比良 絵の具は黒色や青色・赤色と、明度が低いものから高いものまで、種類豊富な下絵の具を使っています。
素焼きの後、釉薬を掛けて焼成する前に絵を付けることを「下絵付け」と言います。
その際に使用する絵具が下絵の具です。本焼きの際に高温に耐えることの出来る絵の具です。

【感想】普段使っているお茶碗などの高台部分に描かれている二本の線。その綺麗な平行線が精緻に描かれていく様子には、思わず息を呑んでしまいます。スジ引きの仕事は多岐に渡りますが、高い技術が必要な作業だと思いました。


※大きな筆を使って、広範囲に色を付けている様子です。

【速く正確に引くためのコツ】

――スジを速く正確に引くコツはありますか?

高比良 まず、色の濃さをしっかりと合わせることが大事です。薄すぎてしまうと、線を引く時、生地に筆を付けて何周もスジ車を回さないと、正確な濃さになりません。

また、絵の具や、スジ車の配置も大事になってきます。置く位置が自分のいる位置から遠いと、必要以上に腕を動かすことになり、近いと手が当たってしまうので、作業を繰り返していく中で、自分にあった配置を見つけていくことが大切です。それだけでも作業スピードが速くなります。

そして、ある程度慣れてきたら、平行作業を意識して作業しています。
「筆に絵の具を含ませてから、スジ車の上に生地を乗せる。」「生地の方へと筆を寄せながら、生地をスジ車の中心に据える。」ひとつひとつを別々に行うのには時間が掛かる作業も、同時に進めることで、速く作業ができます。
単純だけど難しくて、スジ引きの仕事をしていく上で、とても必要になってくることです。

【感想】絵の具の色の濃さや、道具の配置、同時進行の作業が必要となるんですね。初心者だとまず、生地をスジ車の中心に据える作業に時間がかかってしまいます。それを次の動作を見越しながら行うのは、熟練の職人さんでないとできないことだと思います。


※すでに絵がつけられた状態のラーメン鉢の高台部分に二本線を描くため、器をスジ車の中心に据えている様子です。

【難しいと思うこと・意識していること】

――スジ引きを行う際、難しいと思うことを教えてください。

高比良 筆の押し付け方一つで、線の太さが変わり、広範囲に色を付ける場合はムラが目立ってしまうことがあります。スジ車を使い、生地を回す中で、筆を付ける時間は限られています。その一瞬で、どのくらい押し付けるのかを調整するのが難しいです。また、生地の形状によって筆を置く位置も変わるので、その時その時で臨機応変に対応できる能力が必要になってきます。

――スジ引きを行う際、意識していることはありますか?

高比良 商品をよりきれいな状態で仕上げることです。スジ引きは、商品によって担当する段階が一番目だったり、二番目だったり、最後だったりと変わります。
担当段階が終盤に近づくと、絵が付けられた状態の生地を、スジ車に乗せて作業することがあります。スジ車を用いた作業は、まず指先で生地を軽く叩いて、スジ車の中心に据えていきます。その際に、絵が付いていると、絵が付いていない箇所を叩かなければいけません。時には、茶碗のフチを叩いたりして、商品を汚してしまわないように気を付けています。

【感想】 筆の押し付け方の微妙な差で、絵付けの雰囲気が変わってしまう繊細な作業なんですね。また、絵付けされた器のフチを叩いて、スジ車の中心に据えるのは、非常に神経を使う作業だと思います。詳細を聞けば聞くほど、高難度な技術であることが分かりました。


※スジ引きに使われる色んな種類の筆です。

【仕事に携わってみての感想】

――この仕事に携わってみての感想を教えてください。

高比良 スジ引きを始めたばかりの頃も、現在も「とても集中力が必要な作業だな。」と感じています。最初の頃は他に意識が散ってしまわないようにと、息を止めて仕事をしている時もありました。 長く続けていても、中々スピードを速くできない作業や、苦手だと感じる作業があります。それを自覚して改善できるようにと考え、行動に移すことで、日々少しずつ成長できていると思います。今後も現状に満足するのではなく、より良くしていく努力を怠らないよう、自分の仕事と向き合っていきたいです。

【感想】今回のインタビューで、スジ引きは至難の業であることがよく分かりました。まだ20代の職人さんですが、ストイックな姿勢で難しい仕事に励む高比良さんに尊敬の念を覚えました。