スタッフインタビュー その7 〜ローつけ〜
波佐見焼の窯元「山下陶苑」。
今回は、山下陶苑についてもっと知るべく、ローつけを担当している高比良さんにインタビューをしました。
ローつけの仕事の内容やローの作り方、ローの効果、ローをつけるコツ、難しさや仕事に関わってみての感想についてお話を伺います。
【ローつけの仕事内容】
――まず初めに、ローつけの仕事内容について教えてください。
高比良 器の特定の箇所にローをつけていく作業です。スジ車(ろくろ)に生地を乗せて、回しながら筆でつけていくものもあれば、片手に生地を持ち、筆を使ってフリーハンドでつけていくものもあります。
【感想】ローというとケーキに乗っているロウソクや花火などで使うものをイメージしますが、器にも塗ることがあるんですね!同じ筆を使う作業でも、絵の具を使う際とは違い、塗るのが難しそうだと思いました。
【ローの作り方】
――次に、ローの作り方を教えてください。
高比良 ローは、生地に付けやすい液体状にするために、温度を400度以上にしないといけないので、耐熱鍋を使って作っています。
作業をするにあたって、2種類のローが必要になるので、鍋を二つ用意し、片方にはパラフィン(ロウソクの原料にもなっている白色半透明の固体)のみを入れ、もう片方には、パラフィンとアルミナ(焼成中に器と棚板[器を焼成する際に、器を乗せる板]がくっつくのを防止したり、器同士がくっつくのを防止したりする役割を持つ粉)を入れています。
【感想】400度という非常に高い温度まで熱して作られたローを使っていくんですね。特殊な材料が用いられていることも分かりました。二種類のローが役割によって使い分けられていることは初めて知りました。
【ローの役割】
――なぜ器にローをつけるのか、ローの役割を教えてください。
高比良 ローには撥水(水を弾く)効果があるので、釉薬を掛けてはいけない箇所にローをつけています。ポットや急須など、蓋と身で分かれているものは、窯に入れる時に蓋を被せるので、焼き上げた後に蓋と身がくっついてしまわないように、合わせ目にローをつけています。
【感想】ここに釉薬をかけない!という箇所にピンポイントでローをつけていくのは技術のいる作業でしょうね。器同士がくっつかないようにするという、大切な役割もあるんですね。
【ローをつけるコツ】
――速く、正確にローをつけるコツはありますか?
高比良 スジ車を使った作業に慣れることの他に、筆についているローの量や、生地に筆を押し当てる強さを覚えることが必要です。
どちらも加減を間違えると、生地に上手くローがつかなかったり、つける必要のない箇所にローが垂れてしまったりします。
覚えてしまえばその作業にも慣れ、自ずとスピードも速くなっていきます。
【感想】ローつけは経験値がものを言う作業であることがよく分かりました。鍛錬を重ねることで、筆に含ませるローの量や筆を押し当てる強さが分かってくるんですね。コツコツと練習を続けることが一番の近道なんですね。
【ロー付けの難しさ・意識していること】
――ロー付けの仕事をするにあたって難しいと思うことはありますか?
高比良 大きく分けて二点、難しいと思うことがあります。一つ目は、ローをつける箇所とローをつけてはいけない箇所の境目を目視で判断しないといけないことです。二つ目は、ローの厚みの調節です。蓋と身で分かれている生地に対して、ローを厚く塗りすぎてしまうと、蓋を身に被せることができなくなってしまいます。
ローつけは、繊細な作業を求められるものも多く、商品一つ一つにそれぞれ注意する点があるため、それを頭に入れて作業するのですが、実際にしてみると難しくて、上手くいかない時もあります。
――ローつけをする際に意識していることはありますか?
高比良 作業をする際、ローをつけてはいけない箇所にローが飛んでしまうことがあるため、それを見逃したまま流してしまわないように気を付けています。他の作業をする人の目に届かない位置だと、焼き上がるまで誰も気付けない可能性もあるので、しっかりと確認するようにしています。
【感想】ローつけは、繊細な作業であるため、慎重に行わなければならないんですね。流れ作業で器を扱っていく山下陶苑では、ひとりのミスが商品全体の仕上がりに直結します。ローが他の箇所に飛んでないか確認している点から、高比良さんの責任感を感じました。
【仕事に携わってみての感想】
――この仕事に携わってみての感想をお聞かせください。
高比良 この仕事に関わるまで、この作業が商品を作っていく上で、どのような役割を果たしているのか知らずにいました。ですが、実際に携わり理解してからは、焼き物の見方が少し変わってきたなと思います。ローをつけるという作業がないと出来上がることのない様々な商品が、生活に寄り添う環境に意識が向き、今ではやりがいを感じる仕事の一つとなっています。
【感想】ローをつける、という絵付けの下地になる作業、だけど非常に重要な役割を担う作業に、真摯に向き合う高比良さんに尊敬の念を覚えました。ローつけは、豊富な知識と高い技術を持った高比良さんだからこそできる仕事だと思います。ともに働く仲間として、いい刺激を受けたインタビューでのひとときでした。