スタッフインタビュー その9  〜判打ち〜

波佐見焼の窯元「山下陶苑」。
今回は、山下陶苑についてもっと知るべく、判打ちを担当している樋口さんにインタビューをしました。

穏やかなお人柄で、誰にでも優しく絵付けを教えてくださる樋口さん。
物腰の柔らかな樋口さんですが、長年の経験から培われた技術は熟練そのもの。

今回のインタビューでは、そんな樋口さんに、判打ちの仕事の内容や注意点、コツや仕事に携わってみての感想についてお話を伺います。


※熟練の職人さんが判を打っている様子です。

【判打ちの仕事内容】

――まず初めに、判打ちの仕事内容について教えてください。

樋口 専用の判子に判用の絵の具をつけて、器に絵柄をスタンプしていく作業です。


※判子の絵柄に応じた専用のインクです。

絵柄は、猫やうさぎ・ふくろうなどの動物の輪郭から、花びら・ひょうたんなど、多様な種類があります。 絵付けの工程を判子だけで完結させるような器もあります。例えば、猫はパーツごとに輪郭、顔、手足、首輪、耳などを判子のみで描いていきます。


※山下陶苑で使われている多様な判子です。

――判子はどのようなものを使っていますか?

樋口 素材は、曲面にもしっかり押せるようにスポンジになっています。表面だけ固いスポンジになっていますが、そこに描いた絵柄を切り抜き、持ち手となる柔らかいスポンジに貼り付けてあります。
判は使い終わったら、きれいに水拭きをして、手入れをしています。

【感想】トンッと判子を打つと絵柄ができあがる様子を初めて見た時は、「おぉ〜!」と唸ってしまいました。筆で描くと時間がかかる柄も、判子を使うことでよりスピーディーに描くことができますね。

【気を付けること・注意すること】

――判打ちをする際に、気を付けること・注意することはありますか?

樋口 判につける絵の具の色の濃度には気をつけています。濃度は均一にしなければいけませんが、色が薄過ぎたり、逆に濃過ぎたりすることがあります。
そのため、必ず初めに試し打ちをして色を見たり、濃度が合った色の見本を手元に置いて確認したりするなどの工夫をしています。


※割れた生地に試し打ちをして濃度を見ます。左が濃過ぎる、真ん中がちょうど良い、右が薄過ぎる濃度です。

――速く正確に打つコツはありますか?

樋口 ひとつひとつの絵柄を丁寧に打つことです。一見して遠回りに見えますが、それが判打ちを行う際の一番の近道です。

【感想】色の濃度が判打ちの重要なポイントなんですね。同じ色の濃さで、何個もの器に判を打っていくのは至難の業ですね。

【得意な絵柄の判・難しい絵柄の判】

――得意な絵柄の判はなんですか?

樋口 桜や梅、花の芯など、花に関係している絵柄が得意です。小ぶりな絵柄のものは比較的に打ちやすく感じます。


※花の芯の判子を打っている様子です。

――では逆に、難しい絵柄の判はありますか?

樋口 猫の輪郭など、器の半分以上を占める大きい柄のものは難しいです。猫の輪郭が、器にきれいに収まらなかったり、判が途切れて打てなかったりします。
そういうときは、初めに打つ位置を定めて、それに合わせて慎重に判を打つようにしています。


※猫の輪郭の判子を打っています。この判子は焼成後に消えます。


※猫の顔のパーツの判子を打っている様子です。


※猫の手足のパーツの判子を打っている様子です。

【感想】花びらなどの判打ちは、筆者も行ったことがありますが、ズレが出たりかすれたりしました。得意だと言えるのは、熟年のなせる業であることが分かります。
また、大きい柄のものほど、器の絵付け全体の印象を決定づけるため、難しくなるんですね。

【仕事に携わってみての感想】

――この仕事に携わってみての感想を教えてください。

樋口 最初はうまくいかなかった判打ちですが、きれいに打てるようになったときは嬉しかったです。とても難しいけれど、焼き上がった器を見ることに喜びを感じます。
この技術を新しい世代のスタッフに教えていけたらいいなと思っています。


※黄猫のキャリーバックという商品の焼成後の様子です。
【感想】ひとつひとつ手打ちで行う判打ちの技術は、知れば知るほど奥深い世界でした。判子ひと打ちに込められた職人のこころを感じたインタビューでのひとときでした。