スタッフインタビュー その11  〜一珍描き〜

波佐見焼の窯元「山下陶苑」。
今回は、山下陶苑についてもっと知るべく、一珍描きを担当している道上さんにインタビューをしました。

繊細な線描きを得意とされ、熟練度の高い絵付けをされる道上さん。
絵付け場の仕事の流れ全体を把握しながら、さらりと高難度の線描きをこなされます。

今回のインタビューでは、そんな道上さんに、一珍描きの仕事の内容や、得意な絵柄、難しいと思うこと、仕事に携わってみての感想についてお話を伺います。


※一珍和花 マグカップの一珍描き風景。

【一珍描きの仕事内容】

――まず初めに、一珍描きの仕事内容について教えてください。

道上 チューブ状の容器の先端に針をつけ、そこから一珍を押し出し、絵柄を描いていきます。通常の絵付けでは、液状の絵の具を使いますが、半固形の絵の具「一珍」を用いることが一珍描きの特徴です。

【感想】山下陶苑の商品には一珍描きの技法が用いられているものが多いですよね。普通の絵の具とは違う「一珍」。その独特の特徴を捉えて、多彩な表現をされる様子を見ていると、思わず息を呑んでしまいます。

【どんな絵柄を描くか・得意な絵柄】

――一珍描きの技法を用いて、どんな絵柄を描きますか?

道上 花や葉、ブドウなどの植物がメインです。他にも、伝統的な市松模様・唐草模様・十草、モダンな幾何学模様などを描きます。


※和モダンな濃つなぎという紋様の一珍描き風景。

――得意な絵柄はありますか?

道上 一珍菊や一珍和花などの花を描くのが得意です。丸みのある線を描いたり、一珍の”たまり”を利用したりすることには慣れています。


※一珍描き後の一珍和花 マグカップ。丸みのある線が描かれている。

――スムーズに描くコツはありますか?

道上 一珍が固いと線が切れてしまうので、水分量をうまく調節することが重要なポイントです。また、針の先を少し浮かせながら描くとスムーズに描けます。

【感想】筆者も簡単な一珍描きを行ったことがありますが、力が入って太くなったり、線が切れたりして難しかったです。手先の器用さが求められる一珍描きで、複雑な絵柄を描くのは凄いことですね。

【難しいと思うこと】

――一珍描きを行う際に、難しいと思うことはありますか?

道上 一珍で囲った線の中に、絵の具で色をつける作業(濃みと呼ばれる)がありますが、その時に絵の具が流れないようにするため、一珍の継ぎ目に隙間を作らないようにすることです。
また、針から出す一珍の量にも気を遣っています。一珍で描いた線に高さがないと、次の作業の時に絵の具が流れてしまいます。そのため、高さを出して描くように気を付けています。


※幾何紋という絵柄の一珍描き風景。次の作業の時に、絵の具が流れないように描いている。


※一珍描きした線の中に、絵の具で色を付けている(濃みと呼ばれる)風景。


※一珍描き・濃みが完了した幾何紋の皿。


※焼成後の幾何紋の皿。

【感想】線の太さだけでなく、器の表面からの高さにも気を付けないといけないんですね。立体感のある線描きならではの難しさだなぁと感じました。

【仕事に携わってみての感想】

――この仕事に携わってみての感想を教えてください。

道上 一珍描きは、筆描きとは違って、先端が針になっているので、線描きに慣れていない人でも描きやすいと思います。絵付けを志す人がはじめに習得しやすい技法です。もし今から絵付けの仕事をされる方がいれば、一珍描きからスタートして、線描きの楽しさを知ってもらえたらいいなと思います。


※一珍和花 マグカップの焼成後の様子。

【感想】曲線も直線も美しく表現できる一珍描き。焼き上がりを見た時には感動を覚えます。そんな一珍描きをマスターできたら、職人としてのスキルアップに繋がりますよね。
押し出す力の強弱で雰囲気が変わる一珍での絵付けは、手描きならではの味が生まれます。伝統技法を大切にしながら、スタイリッシュに線描きをされる道上さんの職人の品位を感じたインタビューでのひとときでした。