山下社長インタビュー 〈前編〉

波佐見焼の窯元「山下陶苑」。
他には珍しい一貫生産や、伝統色が美しいオリジナルブランド「nucca」の開発など、多様な特徴をもつ窯元です。

そんな山下陶苑についてもっと知るべく、山下社長にインタビューをしてみました。
第一弾では、山下社長の窯業に対する熱い思いや、波佐見町について思うこと、仕事で大変なこと、社員たちへの想いについてお話を伺います。

【社長にとっての窯業とは】

――まず初めに、社長にとっての窯業とはどのようなものか教えてください。

山下 生まれた時からそこにあった、当たり前の世界です。親の後ろ姿を見て育ってきたため、昔から「作ること」が好きでした。小学校から好きな科目は図工で、中学生になると焼きものはどうやって作るのかに興味を持つようになり、デザイン科のある学校で学ぶと、より作るのが楽しくなりました。オリジナルのものを作れる世界・環境が周囲にあること、作れることに恵まれているなぁと思います。

――窯業のどのようなことが楽しいですか?

山下 社会で欲しがっている色は何かを考え、試作して窯入れをし、窯から出す瞬間がワクワクして楽しいです。窯入れをした次の日は、「早く会社に行きたい!そのものを見たい!早く朝になれ〜」と思いますね。その日は、車の中でドキドキしながら5:30に出社します。窯から陶器を出した時にはガッツポーズをするときと、落ち込むときの二種類があるんです。6〜7割はうまくいきませんが、その後すぐに「なぜうまくいかないんだろう」と原因の究明をします。うまくいかないからこその商品開発であり、それゆえの面白さがあるんですね。

――焼き物を作るときはどのようなことを考えていますか?

山下 「この世に商品を生み出そう」という気持ちが大きいです。ものづくりは表現方法のひとつです。それでお金をいただけるのはありがたいことです。お風呂でも「これとこれを合わせたら〜」なんてことを考え、シャワーで頭を流す時にアイデアが出てくることが多いんです。夕食時にも妻と仕事の話をすることが多く、焼き物を作ることが生活の一部となっています。

【波佐見町について思うこと】

――社長にとっての波佐見町とは、どんな町ですか?

山下 波佐見町は、日本の端にある田舎町で小さな町なのに、一連の陶器会社がたくさんある独自の世界だと思います。色んな業種の社長がたくさんいますが、一番は焼き物が主流である町です。波佐見町から出るまでは、それが当たり前だと思っていました。田舎町で住みやすく、のんびりしていて災害もない良い町だと思います。

――波佐見町にとってのこれからの課題は何だと思いますか?

山下 後継者不足です。商売を継続するには努力が必要で、事業を継承する後継者が少なくなり、その事業を新しく始めるオーナーがおらず、雇用ができないという問題点があります。若者の流出を止めることと、若者が出て行ってしまったら、他の町から集って、事業をバトンタッチする必要があると思います。

個人的には、その課題に対する対策として他の町から来た若者を招いて、いろいろな事業所で修行いただき後継者を育てる。空き家バンク等の活用も有効な策だと考えます。

【仕事で大変なこと】

――山下陶苑の仕事で課題となっていることはなんですか?

山下 職人さんの後継者不足と新人教育です。先輩が後輩に教えるわけですが、そのときに伝え方が正しいのか、思いは伝わっているのかが大切になります。新人さんが「覚えなければいけない。」と思っているのか、先輩が「伝えなければいけない。」と思っているのかで、理解の深度が変わってきます。絵付けの際の絵の具の濃度は合っているのか、など細かい部分での技術の継承はとても難しいことです。全部私ひとりで教えることはできませんが、すべて私の責任となるため、難しさを感じています。

【社員さんたちに思うこと】

――山下陶苑のスタッフについて思うことはなんですか?

山下 業務内容が多岐に渡るため、色んな技術を身に付けて作業をするのが大変かなぁと思います。絵付けひとつにしても一珍の大きさや色の濃さなど、技術の継承はとても難しいことです。その難しさや大変さがある中で、楽しく・面白く仕事をしてもらい、会社に行きたいと思える場所を作るのが、社長の仕事だと考えています。

――そのような環境を整えるために工夫されることはありますか?

山下 まず、会社の掃除をして、玄関に花を置くことから実践しました。綺麗な会社にすれば、スタッフも「会社に行きたい!」と思ってくれると考えたからです。また、山下陶苑には現場監督がいません。現場監督を置いてスタッフに指示を出す方式よりも、女性スタッフ同士で話し合いながら仕事を進めていった方が楽しいと考えたからです。楽しく仕事をしてもらった方が、人が寄ってきて、より賑やかで活発な職場になっていくと思います。

――スタッフにはどのようなことを求めていますか?

山下 今できる仕事というのがずっとあるかは分からないため、どんどん新しい仕事を覚えてもらうことになっていきます。そのために個人個人のスキルアップやいいものを作る技術が必要となります。どの職種でもそうですが、「やろう!」とする意志のある人が会社に必要とされる人材です。山下陶苑はその集団になれたらいいなと考えています。そのために、まずは自分から実践をして、1人2人〜とそういう人が増えていけばと思っています。チャレンジする意欲や、仲間意識、一歩先・二歩先を見据えて作業をする意識を持ってほしいです。また、一貫生産の強みを活かして、窯元の跡取りさんや、これから窯業関係の起業をしたい人など、窯業を学びたい人が一時的に修行をする場所をご提供できればとも考えています。