山下社長インタビュー 〈後編〉
波佐見焼の窯元「山下陶苑」。
他には珍しい一貫生産や、伝統色が美しいオリジナルブランド「nucca」の開発など、多様な特徴をもつ窯元です。
そんな山下陶苑についてもっと知るべく、山下社長にインタビューをしてみました。
第二弾では、山下陶苑の歩みや、おすすめ商品であるオリジナルブランド「nucca」、これからの山下陶苑などについてお話を伺います。
【山下陶苑の歩み】
――山下陶苑の歩みについて教えてください。
山下社長(以下山下) 父が38年前に起業をしたのが山下陶苑のはじまりでした。
みかん畑を切り拓いて山下陶苑を設立し、父と母といとこ2人の4人で共同経営を始めました。
――お父様はどのような陶器を作られていましたか?
山下 父は特殊なカタチの生地を作るのが得意で、亀甲型やケズリなど、表面がデコボコしたものや、布目など、細工物の生地を作っていました。当時は量販店にたくさんの物を売る時代だったので、一週間にひとつのものを多く作る大量生産を行っていました。
――お父様の代からどのようにして現在に至りましたか?
山下 父から兄に社長を代替わりして、私が専務を務めていました。その後、私が社長になり現在に至ります。デザインは私が考え、形状はみんなで考えるという形で商品開発を行っています。当時は22人ほどいた職人さんが今は15名になっています。
――お父様の代と社長の代での、生産における大きな違いは何ですか?
山下 昔は大量生産の時代であったため、作業効率化のために作業工程を分業で行うのが主流の生産体制でした。一番売れる「茶碗」を量販店にたくさん売るという販売方式でした。
そのため、生地は生地屋さんに依頼をしており、絵付けをして焼くばかりの数をこなす生産を行っていました。茶碗の種類が他の窯元さんより多いのはその名残です。
その後、茶碗主流から、アイテムが広くなって、皿・鉢・土瓶などを生産するようになりました。時代が変わるにつれ、多品種での生産を求められるようになりました。
それから更に時が経ち、お客様から注文のある商品だけでなく、自社オリジナルの商品を開発するようになりました。それが6〜7年前ぐらいです。
自社商品を作り出して在庫を作り、自社主導で商品を作るようになったのが大きな変化です。
それから2年前にオリジナルブランド「nucca」ができました。
ここまでが山下陶苑のはじまりから現在に至るまでの経緯です。
【山下商品のおすすめ商品】
――山下陶苑のおすすめ商品を教えてください。
山下 オリジナルブランド「nucca」です。
――「nucca」はどのようにして始まったブランドですか?
山下 3年前にブランディング会社の裏家さんといっしょに立ち上げたブランドです。「ブランドを始めましょう!」と声を上げて、山下陶苑の強みからどんな会社にしたいかをコンセプトにして企画を進めました。裏家さんの意見を参考にどのターゲットに売るか、どこの店にするか、いくらで売るかを決めていきました。
――「nucca」というブランドの強みを教えてください。
山下 窯元のブランドであることがセールスポイントとなっています。初めは5〜6色で十分かと思いましたが、作っている技術を見せるため12色になりました。釉薬を自社で製造可能で、多様な色彩を生み出すことができるという特色が出ています。メーカーの強みが発揮できたブランドになっていると思います。
――「nucca」はどのような層のお客様に向けて作られた商品ですか?
山下 30代〜40代の女性です。イメージは家族連れのお母様です。
また、「nucca」は12の伝統色を用いて作られていますが、そのなかからお母さんが好きな色を買えば、お子さんが大人になったときに「nucca」の同じ色の商品を欲しくなるのではないかという第二の狙いもあります。子ども用の商品を、試行錯誤しながら3つのサイズ作るという工夫もしています。
――「nucca」の名前の由来を教えてください。
山下 まず、長崎らしく方言にしようという意見がありました。ブランドを立ち上げたのが7月頭の暑い日であったため「あつい」「あたたかい」という意味合いを持つ「ぬっか」という言葉に決まりました。3文字で濁点がないため覚えやすいこともこの名前の長所です。
「世界に知ってもらうぞ!」という気持ちがあるため、覚えやすい名前にしています。ロゴデザインだけで知ってもらえるようにするのが目標です。
【これからの山下陶苑について】
――山下陶苑はこれからどういうものを作っていきたいですか?
山下 山下陶苑にしかない、オリジナリティのあるものです。そのためには、自分だけではできないため、スタッフやデザイナーさんを揃える必要があります。また、ブランディング会社の裏家さんと引き続きタッグを組んで、多様な切り口から新しいものづくりに挑んでいきたいと思います。
――山下陶苑のこれからの目標を教えてください。
山下 商品開発の技術を身に着けることやOEM(企業のオリジナル商品の開発)依頼に応えることです。それに対応できる人材の育成や自社のブランディング、更にそれを営業にかけて世に広めることが大切になってくると思います。
【どういうお客様に手に取っていただきたいか】
――山下陶苑の商品をどのようなお客様に手に取っていただきたいですか?
山下 どんなお客様が買ってくれても嬉しいですが、「新店舗を作ったからお店に山下陶苑の商品を置きたい!」「頑張ったからご褒美に買いたい!」などの意見を持ったお客様が多いです。新店舗をオープンするときに、お客様に山下陶苑の商品をオープンのプレゼントとして渡す、などという使い方もされています。
売り手はお客様を選ぶことができませんが、出会うべきしてお客様と売る側になっているのだと思います。そうであれば、より多くのお客様と商品が出会ったほうが楽しいと考えています。
【陶器市などのイベントについて】
――陶器市などのイベントでは、どのような売り場を作りたいですか?
山下 売るばかりではなく、作っている風景や職人さん達の情報を発信できる場所にできたらと思っています。「この人が作っています」と、明示することで、職人とお客様のつながりを強固にすることが目的です。また、職人さんとお客様が直接コミュニケーションを取ることで、山下陶苑の存在をより深く知ってもらえるようになるかと考えています。
――今後どのようなイベントに出品してみたいですか?
山下 ワークショップの実施や、マルシェなどでの販売を考えています。例えば、マルシェなどに「nucca」のアクセサリーを持っていき、若いスタッフで売るなど、女性向けの売り場を作りたいです。若い人だけで世界観を作ることが大切だと思います。また、スタッフに売り場に出てもらうことで、現場で売れるものがどのようなものかを学び、企画会議で意見を出し合うことで、売れるものの開発が可能になります。スタッフにとって売る経験もこれから必要となる課題です。
――イベントはどのような雰囲気づくりを目指していますか
山下 「nucca」のエプロンやTシャツを開発するなど、文化祭のような楽しい雰囲気を作りたいですね。現場で売れたものは今後の商品開発において、何を作っていけば売れるのか参考になります。多様なものを販売し、そこでもし、アクセサリーが売れるのであれば、山下陶苑は茶碗屋さんではなく、アクセサリー屋さんになるかもしれないですね。